1987年から’89年にかけて、「バンボレオ」「ジョビ・ジョバ」に代表される世界的なヒット曲を連発し、当時大きな波となっていたワールド・ミュージックの領域を超え、ポップ・ミュージックの流れを変えた存在、とまで評されるようになったジプシー・キングス。今から振り返っても、70年代半ばのボブ・マーリィー&ザ・ウェイラーズ以来の、非西欧圏から登場した革命的グループだったと思う。
そのジプシー・キングスは、フラメンコ音楽の名家として知られていたレイエス家とバリアルド家のふたつが、スペインの政変によって、フランスのプロヴァンスに亡命。幼ない頃から、ストリート・パフォーマーとして活動していたふたつの名家の子弟たちが、ごく自然にグループ化し、フラメンコを下地にした新しい感覚の音楽を演じるようになったのは70年代末の事だという。ジプシー・キングスという、ある意味ではとても挑戦的なグループ名を冠するようになったのは’82年の半ばで、その頃、フランスPHILIPSのプロデューサーに見出され、一度レコーディング・デビューをしているが、大きな反響は得られなかった。’86年に、フランスの敏腕プロデューサー、クロード・マルティネスと出会い、世代的に内に持っていたロックやアラブ、アフリカの音楽等との融合を更に極めるとともに、フランスSONY(EPIC)へ移籍し、衝撃作と言っていいファースト・アルバム『Gipsy Kings』(’88年)を発表、一大センセーションを巻き起こす事になった。以来、各国によって多少の違いはあるが、2004年の『ルーツ/Roots』に至るまで8枚のオリジナル・アルバムを発表し、その後は 『Pasajero』(’06年)、『Savor Flamenco』(’13年)、『Evidence』(’18年)、『El Madrileno』(’21) とコンスタントに作品をリリース。『究極ベスト~エッセンシャル・ジプシー・キングス(原題:THE ESSENTIAL GIPSY KINGS)』も話題になった。
「ジョビ・ジョバ」、「ボラーレ」、「ニーニャ・モレーナ」、「エステ・ムンド」、「ベン、ベン、マリア」など、数多くの曲が日本のテレビCMに起用され、いちど聴いたら耳から離れないそのキャッチーで親しみやすい音はお茶の間へも浸透。また、「インスピレイション」は大人気テレビドラマ『鬼平犯科帳』のエンディング曲として今でも日本のファンに愛されている。
そのような状況もあって、1989年、2000年、2001年、2015年、2017年と行われた来日公演は、いずれも幅広い層のファンで会場を埋め、日本での人気の高さの裏付けとなっている。
そして彼らのジャパン・ツアーが今年の5月に開催されることが決定した。実に7年ぶりとなる来日だが、その情熱的なパフォーマンスでふたたび日本のオーディエンスを喜ばせてくれるだろう。
♪ ボラーレ/Volare (Nel Blu Dipinto Di Blu)
2ndアルバム『モザイク』(’89年)に収録のカヴァー曲。日本では“麒麟淡麗〈生〉”のTV-CF曲として大ヒットし、オリジナル曲と思いこんでいる人も多い。’58年サンレモ音楽祭グランプリ受賞のカンツォーネで、ドメニコ・モデューニョ自作自演がオリジナル。同じ’58年のアメリカの第1回グラミー賞のソング・オブ・ジ・イヤーにも選ばれた名曲で、ディーン・マーティンからデヴィッド・ボウイに至る幅広いアーティストがカヴァーしているが、ジプシー・キングスの爆発的なコーラス・ワークは群を抜いた迫力!
♪ バンボレオ/Bamboleo
1stアルバム『ジプシー・キングス』(’88年)から生まれた大ヒット曲。いまだグループの代名詞である著名曲で、ニコラ・レイエスのリード・ヴォーカルとトニーノ・バリアルドのリード・ギターの哀切のからみ、パルマ(手拍子)を核にしたパーカッシヴなルンバ・ビート等、ジプシー・キングスの永遠のパターンが既に完成されている。’88年作品。
♪ ジョビ・ジョバ/Djobi, Djoba
1stアルバム『ジプシー・キングス』を代表するもうひとつの大ヒット曲。グループにとっては歴史ある持ち歌で、SONYからデビューする以前の仏PHILIPS時代に、少し顔ぶれの異なるメンバーで発表したアルバム『Allegria』(’82年)に、これよりアコースティックなヴァージョンが収録されていた。
♪ ベン、ベン、マリア/Bem, Bem, Maria
1stアルバムに収録の曲。ミッキー・ロークが出演したタバコLARKのTV-CFに使われ(’94年)、アルバム発表時より少し遅れて、日本では著名曲となった。そして、ロバート・デ・ニーロ主演の映画『ザ・ファン』にも挿入曲として使われていた(’96年)。ギターのアンサンブルとコード進行が、特に見事。
♪ マイ・ウェイ/A Mi Manera (Comme D'habitude)
1stアルバム『ジプシー・キングス』に収録されていたスタンダード・ナンバーのカヴァーだが、ストリート・ミュージシャンのグループだった頃から常演していたレパートリーだという。元々は、戦後シャンソンの楽曲で、クロード・フランソワ/ジャック・レヴォー/ギリー・ティボーが共作し、フランスの多くの歌手が歌っているが、ポール・アンカが英語詞をつけ、フランク・シナトラが歌い、一躍、世界的に有名な曲になった。ジプシー・キングスが南仏の路上でこの曲を演奏している時、晩年のチャールズ・チャップリンが、聴く度に涙していた、というエピソードもよく知られている。ジプシー・キングスのこのオリジナル・ヴァージョンと、後に再録音されたオーケストラ・ヴァージョンが、’01年のNHKドラマ『バブル』の主題曲に使われた。
♪ エステ・ムンド~この世界/Este Mundo
3rdアルバム『エステ・ムンド』の表題曲で、スキャットを混じえたニコラの、少しエキセントリックなヴォーカルのためか、とても男性的でドラマチックな味わいだ。日本では、MAZDA「センティア」のTV-CF曲に使われ有名になった曲である。
♪ インスピレイション/Inspiration
1stアルバム『ジプシー・キングス』収録のインストゥルメンタル曲、というより、日本では、’89年にスタートした人気TVドラマ・シリーズ『鬼平犯科帳』(原作:池波正太郎 主演:中村吉右衛門)のエンディング・テーマとして使われ有名になった曲と紹介した方が妥当だろう。’97年には、津島利章のドラマ本編音楽とともに、この曲が収められたオリジナル・サウンドトラックCDも発売された。
※バイオグラフィー、代表曲は『究極ベスト~エッセンシャル・ジプシー・キングス』より抜粋・参照