大阪ウドー音楽事務所

DIANA KRALL/ダイアナ・クラール

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  • DIANA KRALL 東京初日公演のライブレポートが到着!
    2024.05.09


    ジャズ・シンガーでピアニストのダイアナ・クラールは、今がまさしく聴きどきだ。そのキャリアがいよいよ熟している。

    彼女がブレイクしたのは1996年。3枚目のアルバム『All for You : Dedication to the Nat King Cale Trio』が米ビルボードで70週間の長期にわたってジャズ・チャートに上っていた。1999年にリリースされた5枚目のアルバム『When I Look in Your Eyes』は全米で100万枚のセールスを記録。当時のダイアナは、ラヴ・スタンダードを中心にロマンティックな歌をロマンティックに歌っていた。美貌も含めて人気を博していた。

    そして、2003年にエルヴィス・コステロと結ばれる。この結婚はプライベートだけでなく、彼女の音楽性も豊かにした。歌がブルージーになっていったのだ。

    「だって、私が結婚した相手はあのエルヴィス・コステロなのよ。影響されないわけがないじゃないの!」

     この年にインタビューした際、満面の笑みでのろけていた。

    「彼は私の内側にあるものをオープンにした。こんなアグレッシブな気持ちになれて幸せ」

     実際に、コステロとつくった『The Girl In The Other Room』はそれまでの純粋にロマンティックなアルバムよりも深みが感じられた。自分の本心を率直に歌うオリジナル曲が多く、歌に説得力が増した。以降はジャズ・スタンダードを歌っても、ブルースの匂いをまとうシンガーになっていく。その後、ポール・マッカートニーの曲をプロデュースし、デイヴィッド・フォスターとも組んだ。レジェンドたちの出会いによって、ダイアナの声はさらに磨きがかかり、グラミー賞を5回受賞。自分自身レジェンドになっていく。

     このように公私ともに豊かにキャリアを重ね、脂が乗り切った状態のダイアナ・クラールが2024年の日本を訪れた。

    今回のジャパン・ツアーは、東京、大阪、名古屋、広島の4都市。追加公演も含めて6公演。初日はゴールデン・ウィークの明けた5月8日に幕を明けた。ドラムスとベースとのピアノ・トリオの編成。

    外は5月には珍しいゲリラ豪雨。定刻よりやや押して19時10分、ダイアナがステージに現れる。黒のスーツ姿にブロンドの髪が美しく映える。ピアノの前にスタンバイするダイアナ。音楽の感度のいい2000人のオーディエンスがかたずを飲む。1曲目に歌われた曲は、フランク・シナトラの人気曲「Almost Like Being In Love」だった。いつもながら、艶めかしいハスキー・ヴォイス。枯れ過ぎず、かすかに濡れ、色気をにじませる。会場全体をムーディにする。

    今回のツアーではセッションの雰囲気を楽しんでほしい、というダイアナ。その夜の気持ち、その夜の雰囲気で選曲。前半はスタンダードが中心。後半はレジェンドのシンガーソングライターたちのカバー曲が中心。その合間に、オリジナル曲を歌った。

    さざ波のようなピアノのイントロによる2曲目は、やはりシナトラの歌唱で知られる「All Or Nothing At All」。ため息のようなヴォーカルで「All Of Me」、スロウなアレンジで「I’ve Got You Under My Skin」と歌い継いでいく。彼女のピアノからは風景が見える。彼女の歌は歌詞が描く物語をつむぐ。「I’ve Got You Under My Skin」はドラムスの、ブラシの音が心地よかった。

    ダイアナは夫、エルヴィス・コステロとの出会いを語り、アルバム『The Girl In The Other Room』から、2人で共作したタイトル曲「The Girl In The Other Room」を披露。スタンダートやカバーが中心のショーで、オリジナル曲がアクセントになる。

     やがてドラマーとベーシストが袖にはけ、自分が弾くピアノだけでダイアナが歌うコーナーに。リクエストを客席から募った。拍手に包まれながら「Let’s Fall In Love」、ジョニ・ミッチェルの「A Case Of You」、スロウヴァージョンの「S’ wonderful」などを歌っていく。ダスティ・スプリングフィールドが歌い、いまではダイアナの代表曲の1つでもある「The Look Of Love」で会場が盛り上がった。

     今回のショーの最後のブロックは再びトリオ編成。トム・ウェイツの「Jockey Full Of Bourbon」「Take It With Me」、バッファロー・スプリングフィールドの「Mr. Soul」、ニール・ヤングの「Bright Light Big City」など。3人だけの演奏なのに、まるでオーケストラのように音楽が大きく広がっていく。

     この夜のハイライトは「Mr. Soul」の次に歌われた「Departure Bay」だったのではないか。この曲も、コステロとともにつくった『The Girl In The Other Room』なかの1曲。邦題は“出発(たびだち)のベイ”。ものすごく情緒的な曲、歌、演奏だった。“デパーチャー・ベイ”はダイアナの故郷、カナダのブリティッシュコロンビア州の街ナナイモにある湾のこと。MCによると、ナナイモからバンクーバーへ、彼女はジョニ・ミッチェルの曲を聴きながらフェリーで渡ったという。

    彼女はピアノを弾きながら歌う。しかし、いわゆる弾き語りとは響きが違う。あるときはシンガーが2人いるように聴こえる。またあるときは、ピアノが物語のシーンを描き、歌がストーリーを語っていく。ピアノが、映画のサウンドトラックのような役割になる。

     鳴りやまぬ拍手に呼び戻されて歌ったアンコール曲は、ボブ・ディランの「Queen Jane Approximately」とナット・キング・コールの「Let’s Face The Music And Dance」。アップライトからエレクトリックに持ち替えられたベースが歌いまくる。アリーナ、2階、3階、4階……すべてのフロアのオーディエンスがスタンディング・オベーションでダイアナを讃えた。



    文:神舘和典
    写真:土居政則
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