大阪ウドー音楽事務所

Ludovico Einaudi/ルドヴィコ・エイナウディ

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  • Ludovico Einaudi ルドヴィコ・エイナウディの魅力に迫る連載、第3回(最終)を公開!
    2020.02.13
    原雅明さんによる連載の最終回となる第3回は、多様性に富んだ2010年代の活動を総括します。
    また、2017年の来日公演の模様と最新作『Seven Days Walking』を通じて、4月の来日公演の展望にも迫ります。ぜひお楽しみ下さい。

    2010年に入ると、『Live In Prague』と『The Royal Albert Hall Concert』の2枚のライヴ・アルバムが発表された。前者はピアノ・ソロで、後者は『Nightbook』の楽曲を中心に、ロバート・リポックのエレクトロニクスも含めた、数年来取り組んできたアンサンブルでのライヴを収めた集大成的な録音だった。そして、これらがリリースされた頃には、エイナウディは既に次の制作に進んでいた。次作となる『In a Time Lapse』(2013年)は作曲に2年をかけ、2012年10月にヴェローナ近くの修道院でレコーディングされた。


    『In a Time Lapse』(2013年)

    『In a Time Lapse』では、「Time Lapse」や「Newton's Cradle」といった曲に顕著だが、エイナウディが弾くアコースティック・ギターは時にピアノ以上に目立ち、エレクトロニクスはストリングスのアンサンブルの中に自然に溶け込み、カリンバはまるでエレクトリックなパルスのように使われた。『In a Time Lapse』を構成したのは、ストリングス、グロッケンシュピール、タンバリン、ハープ、カリンバ、アコースティック・ギター、エレクトリック・ベース、エレクトロニクス、そしてオーケストラ。ピアノだけがメインになることはなく、曲によってはエイナウディがグロッケンシュピールやエレクトロニクスを担当した。『Nightbook』の構成がプロトタイプとなって、更なる拡がりを見せた音楽だった。ちなみに、『In a Time Lapse』はデジタル・ダウンロードの売上がCDリリースの売上を上回った最初のクラシック・アルバムとして話題を呼んだが、クラシックのリスナーではない層からの支持が確実なものとなった結果でもあるだろう。

    2015年には2枚の対照的なアルバムが発表された。『Taranta Project』は、エイナウディが南イタリアのサレントで開催されるヨーロッパ最大級の民俗音楽フェスティヴァル、ラ・ノッテ・デッラ・タランタ(La Notte Della Taranta)のコンサート・マスターを任されたことを受けてリリースされた。1998年にスタートしたこのフェスティヴァルは、サレントの伝統音楽タランテッラ(毒蜘蛛タランチュラに噛まれた者が解毒のために激しく踊った踊りに由来するという)を守るだけではなく、クラシックやポピュラー・ミュージックとの交わりも積極的にプレゼンテーションするコンサートを企画してきた。タランテッラを新たに解釈するコンサート・マスターは広く外部から招き、ジョー・ザヴィヌルや元ポリスのスチュワート・コープランドから、イタリアのプログレ・バンドPFMのマウロ・パガーニまで幅広い人選が為されてきた。


    『Taranta Project』(2015年)

    エイナウディは2010、11年のコンサート・マスターに選ばれた。彼はタランテッラに北アフリカやトルコの音楽からの影響を見て取り、その解釈を加えたバンド・プロジェクトをイギリスのギタリスト、ジャスティン・アダムズと立ち上げた。アダムズと共演してきたガンビアのリッティ(一弦フィドル)奏者ジュルデー・カマラ、『Diario Mali』で共演したマリのコラ奏者バラケ・シソコ、トルコのネイ(葦笛)奏者でDJアーキン・アレンとしてスーフィー音楽とクラブ・ミュージックを融合させるプロデューサーとしても活動するメルジャン・デデ、サレント出身のタランテッラの打楽器奏者でシンガーでもあるアントニオ・カストリニャーノらがフィーチャーされた。アフリカ、マリの訪問から始まったエイナウディの民俗音楽の探求が、南イタリアのタランテッラの再発見へと繋がっていく筋道が見えてくるリリースとなった。このアルバムはクラシックの範疇からは外れた内容で、従来のエイナウディの作品のようにポピュラリティを得ることはなかったが、かつてジョー・ザヴィヌルがワールド・ミュージックに傾倒して押し進めたザヴィヌル・シンジケートを更新するようなスケールの大きさを感じさせる音楽だった。


    Redi Hasa & Maria Mazzotta ‎/ Ura(2013年)

    そして、2015年にリリースされたもう一つのアルバム『Elements』は、イギリスのポップ・チャートで最高12位に入り、世界42ヵ国のクラシック・チャートも席巻した。このアルバムはエイナウディが『Nightbook』以来、録音でもコンサートでも信頼を寄せてきたアンサンブルのメンバーと共に『In a Time Lapse』に続く作品として制作された。そのメンバーにも注目をしてみたい。ヴァイオリン奏者のフェデリコ・メコッツィ、チェロ奏者のレディ・アサ、ギタリスト/ベーシストのアルベルト・ファブリス、パーカショニストのフランチェスコ・アルクーリらがコアとなるメンバーだ。アルバニア出身のアサはサレント出身の女性シンガー、マリア・マッツォッタとのデュオ作『Ura』(2014年)をリリースしている。伝統的なスタイルからモダンで実験的なアプローチまで多様な演奏を聴くことができる。アサを除いた全員がイタリア出身の若手ミュージシャンである。彼らを中心に、90年代からエイナウディと活動を共にしてきたチェロ奏者のマルコ・デシーモやエレクトロニクスのロバート・リポックも加わって、『Elements』は作られた。


    『Elements』(2015年)

    2017年には、このコア・メンバーを従えたエイナウディの来日公演があった。『Elements』の楽曲を中心にしたそのステージを実際に見ることができたのだが、アルバムを聴いているだけでは掴めなかった音楽性を知ることとなった。ステージの中央にあるピアノは、観客に背を向けてエイナウディが座るように置かれていた。そして、ピアノを取り囲むようにメンバーは配置され、エイナウディが中央でピアノを弾きながら、コンダクターのように全員の演奏を確認できる状態にあった。ステージのレイアウトや照明からして、通常のクラシックのコンサートとは明らかに異なる雰囲気で、コンセプチュアルなロック・バンドのようだった。果たして、音が鳴り始めるとバンドと呼ぶのが相応しい演奏が繰り広げられた。

    各メンバーは楽器を持ち替え、複数のエレクトリック・ギター、フレームドラムや様々なパーカッション、ウォーターフォン、ヴィブラフォン、エレクトロニクスを使い、重層的で複雑なサウンドを生み出していた。プリミティヴな楽器を使いながら、まるでクラウト・ロックのような硬質なハンマービートを響かせたり、ギターの規則的なカッティングの重なりから生まれるミニマルな反復はギターのハーモニクスを使ったニューヨークの作曲家グレン・ブランカの音楽を彷彿させる瞬間もあった。あるいは、エイナウディがポピュラー・ミュージックへの興味として時折引き合いに出すマッシヴ・アタックやポーティスヘッドとストリングスとの関係を思い起こさせる展開も垣間見られた。出音は想像以上にラウドな時もあったが、一方でヴァイオリンとチェロ、ピアノとの静謐なアンサンブルを楽しむ余地も残されていた。ライヴにおける有機的なダイナミズムや流動的なコンビネーションは、録音作品としてパッケージに収まった音楽からは伺い知ることができなかったものだ。マッシヴ・アタックやポーティスヘッドのライヴが閉ざされた音響空間の愉しみからリスナーを解き放っていったように、エイナウディのライヴも新たな聴取体験をもたらすものとして機能しているように感じられた。そして、なぜその音楽がポピュラリティを得ているのかを初めて実感もできたのだ。

    『Elements』のワールドツアーが終了した2018年の年明けに、エイナウディはイタリアの自宅近くにある冬のアルプスを頻繁に散策した。そして、ほぼ同じ道を辿る散策の中で得たインスピレーションから作曲を始めた。それは、音楽的な迷宮を構築するように7か月間に渡って7つのアルバムとして連続リリースするシリーズ『Seven Days Walking』となった。「DAY 1」から「DAY 7」まで、それぞれが1日のヴァリエーションを表現しているのだという。『Seven Days Walking』には、ヴァイオリン奏者のフェデリコ・メコッツィとチェロ奏者のレディ・アサがフィーチャーされ、エイナウディとの最小限のトリオ、あるいはピアノ・ソロで全曲が録音された。なぜ、これほどまでのボリュームの作品をリリースするに至ったのだろうか? その答えについては本人のインタビューを待ちたい。


    『Seven Days Walking』(2018年)

    エイナウディの音楽がクラシックとしては異例の商業的な成功を収めたが故に、その理由を巡って喧しく論じられることもある。エイナウディは現代のデジタル環境によって規定される感性に対するアピールに優れているのは確かだろう。本人は否定するかもしれないが、デジタル・ファーマットでの新たなアウトプットに対して貪欲でもあると思う。教会で生で聴くことを意図して作られた時代の音楽ではなく、ネットを介してストレートに耳に届く時代の音楽であることを意識してもいるだろう。だから、CDあるいはレコードのフィジカル・リリースが限定的なものとなり、デジタル・ダウンロードからサブスクリプション・サービスへと移行している音楽聴取を取り巻く環境に対するエイナウディの次なるアプローチという意味合いを、『Seven Days Walking』のリリースには感じてもいる。

    4月に開催される来日公演は『Seven Days Walking』のワールドツアーの一環であり、アルバムと同じくフェデリコ・メコッツィとレディ・アサをフィーチャーする。エイナウディのキャリアを振り返ってみれば、日々繰り返されながら前に進んでいくツアーのライヴこそが活動の原点だと言える。トータルで6時間以上に及ぶ『Seven Days Walking』から、エイナウディは今回オーディエンスにどんな聴取体験をもたらすだろうか。それこそがライヴの醍醐味である。

    原雅明

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