デビュー15周年を迎えたイル・ディーヴォのツアーが9月18日の武道館公演からスタートした。ステージセットは、今回もシンプルにステージ後方のヴィジョン4つと中央のヴィジョン1つだけ。
冒頭を飾ったのは、新作『タイムレス』からの 1.『ハロー』と 2.『ライト・ヒア・ウェイティング』。ソロで次々に歌い、4人で壮大なハーモニーを紡ぎながら、転調で高揚感を煽るのは得意なスタイルだけれど、この2曲を選んだことに今回意味がある。新作から自ら設立したレーベルに移籍し、クリエイティヴ面のコントロールを4人で担い、これまで歌いたくても歌えなかったポップ・ソングを歌った。その代表曲が冒頭の2曲だ。心機一転の再出発を宣言するかのように聴こえた。新作の収録曲は、一部と二部で全て歌った。
他にも新たな試みは随所見られたが、そのひとつがセバスチャンの日本語のMC。たどたどしさに会場が沸く。3.『愛をふたたび』と 4.『エンジェルス』を挟み、もうひとつの試みが登場。ウルスが子供時代からの想い出の曲として、モーツァルトのオペラ『魔笛』から大好きなテノールのアリアを熱唱する。彼の原点に初めて触れられた。
6.『カム・ホワット・メイ』から、7.『オール・オブ・ミー』、8.『ラヴ・ミー・テンダー』、9.『キエン・セラ』へとつなぎ、スペイン語の軽快な楽曲に手拍子が起こり、ここぞとアリーナの観客が立ち上がったところで、次にカルロスが10代で初めて人前で歌った懐かしい曲として、スペインの名曲 10.『グラナダ』をセクシーなバリトンで熱唱する。一部は、11.『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』で幕が下りる。
後半は、全員がブラックスーツに着替えて登場。前半のカジュアルなジャケットとパンツとは雰囲気が一変する。ステージ中央にイスとテーブルが置かれ、ダンサー6人が現れて、12.『ある愛の詩』から 13.『アンフォゲッタブル』、14.『アンチェインド・メロディー』、15.『スマイル』までドラマ仕立てのパフォーマンスが続く。MCでシネマへのトリビュートと語る。
ここからのトークが驚きだった。映画に引っかけて、それぞれが主演するならば、というお題で、デヴィッドは『インディアナ・ジョーンズ』、ウルスは『イージー・ライダー』、カルロスは『007ジェームス・ボンド』、セバスチャンは『スーパーマン』と、わざわざパロディ写真をヴィジョンに映しながら紹介する。ユーモアたっぷりの演出と、カルロスのオヤジギャグに少々戸惑うが、4人がとても楽しそう。すごく自由に振舞っているのが印象的だった。
そして、セバスチャンのソロでは彼のアルバムからアップビートなポップ・ソング 16.『アップ』をパフォーマンス。ひとりだけシンガー・ソングライター出身という彼の原点をあらためて知る曲になった。
再び新作から 17.『この素晴らしき世界』、デビュー時の若き映像を映しながらの 18.『追憶』セバスチャンのアカペラから始まる 19.『オールウェイズ・ラヴ・ユー』へ。最後のソロは、デヴィッドだ。上手な日本語で、「他の3人は過去と現在をテーマにしたけれど、ボクは未来がテーマ。25年間オペラを歌い、ようやく声が成熟し、今自信を持って歌える」と語り、大好きなイタリア・オペラ『道化師』からのアリアを演じるように伸びやかなテノールで歌う。まさに本領発揮の熱唱に拍手が鳴り止まない。
最後の2曲は、21.『愛なき人生』と 22.『サムホエア』。そして、アンコールは 23.『アンブレイク・マイ・ハート(レグレサ・ア・ミ)』と 24.『マイ・ウェイ』、定番曲の強みを見せつけるエンディングとなった。
彼らを巡る環境が変わり、あらためて4人で歌う歓びを彼ら自身が心から楽しんでいることが伝わる初日となった。一部新曲に不慣れな点が見え隠れしたが、公演を重ねるごとにそこも改善されていくだろう。ツアーは、10月3日の名古屋公演まで続く。
服部のり子