Q: 2月のツアーは5年ぶりの来日公演となりますね。また日本に来ていただけて、本当に嬉しいです。
B: ありがとう。
Q: 1978年以来、22回も来日されていますが、これまでの来日で印象残ったエピソードはありますか?
B: 東京のフィッシュマーケット(築地市場)へ行ったのは楽しい思い出だよ。新幹線も大好きだ。あと、街を歩くのが好きなんだ。日本では毎日が普通とは違う体験だから。制服姿の子供たちというのも、日本ならではの好きな光景だよ。
Q: 印象的だった公演とかは?TOTOと来たり、ドナルド・フェイゲン、マイケル・マクドナルドとも来てますし…初来日の思い出はありますか?
B: うっすらとしか覚えていないんだが、僕がものすごく人気があった頃だね(笑)。大きな野球場で演奏したんじゃなかったかな。初めての日本のオーディエンスを前にものすごく興奮したことを覚えている。誰にとっても、初めての日本というのは、印象に残る体験だ。しかもあれだけの大勢のオーディエンスを前に何公演もやれるなんてね。ホテルの部屋が贈り物の花や果物でいっぱいだったのも覚えている。当時の日本のオーディエンスは今とは違っていて、演奏をしっかりと聴いて、拍手をするまでにかなり時間が開くんだ。曲の最後の1音の余韻が聞こえなくなるまで待ち、一瞬の沈黙の後、ようやく拍手が起きる。はじめはすごく不思議だったね。
Q: Mr. UDOが最近亡くなられたことをお聞きになったと思いますが、何か、思い出がありましたら教えてください。
B: ああ。会うたび、とても楽しい人だった。初めて日本で会った時は大勢のスタッフと一緒だったが、満面の笑顔で「ハロー」と大歓迎してくれて、たちまち気持ちがほぐれされたのを覚えてるよ。コンサートにもほとんど毎日来てくれていて、終演後にはいつもスタッフとMr .UDO、バンド、クルーも一緒にディナーに出かけたよ。そんなプロモーターって、少なくとも僕は他の国ではほとんど経験したことがなかった。日本でのツアーの大きな魅力の一つが彼の存在だったと思う。
Q: あなたはブルースやR&Bやジャズがお好きだと思いますが、最近はどのような音楽を聴いていますか?
B: 大抵聴くのはジャズ、昔ながらのジャズだ。ジャズはプレイヤーも大勢いるし、楽曲もたくさんあるから、どれだけ聴いてもすべては聴ききれない。僕が名前を挙げられるのは10〜12アーティスト程度で、世の中には知らないアーティストの方が多いくらいだし、同じ楽曲にも何通りものヴァージョンが存在する。なので、今はそういうのを聴いていることが多いよ。ブルースも好きで今も聴くけど、普段ラジオや、自分で手に取って聴くのはジャズだね。
Q: ジャズでもいいのですが、気になっているアーティストはいますか?
B: 新人や新しいジャズ・プレイヤーのことはそんなに知らないんだ。その時代ごとに新しいプレイヤーは当然出てきているけれど、僕が聴くのは、かつてジャズを聴き始めた頃に人気があった60年代、70年代、80年代のもの。たとえばウェイン・ショーターはお気に入りの一人だったが、今年亡くなってしまった。なので最近、またよく聴いているよ。彼がもういないのはとても残念なことだ。たくさんの音楽を世に残してくれているが、演奏する姿を見られないというのが、いまだに信じられない。ハービー・ハンコックも大好きな一人。彼は今も演奏をしている。そういった偉大なヒーローたちが今も演奏を続け、ライヴを見られるのはとても貴重なことだ。僕自身、大勢の素晴らしいジャズ・アーティストと同時代を生きられたという気がしている。今、またジャズへの興味や関心が高まっているようで、ラジオでもジャズを聴く機会が増えているよ。
Q: 最近のシーンについてどう思いますか? 今、あなたがおっしゃったように、若い人の間でもジャズがまた見直されているような印象ですが。
B: ああ、ここ数年、若いジャズのプレイヤーが台頭してると聞くよ。僕自身は名前は知らないが、シーン自体盛り上がっていると聞く。年齢も若く、それほど生のジャズに触れていない世代なのに、ものすごい演奏能力は高いし、トラディショナルな王道のジャズのスピリットを持ち合わせているんだ。それは嬉しいことだね。というのも、例えばブルースの世界には、かつてのブルースのスピリットを持ち続け、演奏している若手のミュージシャンはそれほどいない。ところがジャズはそこが違ってて、往年のアーティストに匹敵するようなジャズへの思い、愛が、若手にも継承されている気がするんだ。
Q: コロナを経ても変わらずツアーを精力的に行っていますが、パンデミック前後であなたに、オーディエンスに、何か変化はありましたか?
B: ああ、時にオーディエンスの熱意は僕ら以上だったりもするよ。パンデミックで、よりハングリーになったというか(笑)いかにライヴに飢えていたかがわかる。僕らにしてもそれは同じで、ライヴで演奏がしたくてたまらなかった。今、ステージに上がると驚くくらい、それを感じるよ。僕自身、人のライヴを聴きに出かけることもあるんだが、オーディエンスの熱気が前以上だってことがよくわかるんだ。つまりどれだけ人間が音楽を欲していたか…。人と会えない状況が長く続き、どれだけライヴで聴く音楽が人間にとって大事なものだったかを知らされた気がするね。
Q: あなたにとって、ツアーとは? やはり無くてはならない大事なもの?
B: ああ、僕もコロナ禍、演奏ができないのは残念だったよ。パフォーマーである自分の人生に音楽は不可欠だし、ツアーが恋しかった。ミュージシャン仲間の中にはその間を利用して、新曲を書き、録音し、動画で演奏をする者もいたが、僕はしなかった。だから本当にツアーが恋しかったんだ。と同時に、僕ほどのベテランになると、どこか穏やかな気持ちでライヴがおこなえるんだ。決してエキサイティングじゃなくなったという意味じゃないよ。ステージに上がるのはいつだってエキサイティングさ。でも昔とどこか違ってきている。若い頃はいろんなことが気になったり、心配だったし、興奮もあった。今だってもちろんそういう部分もあるが、年齢を重ねたことで、より音楽そのものに集中し、音楽の中で穏やかな時間を持てることへの充足感を感じられる気がする。
Q: 今回のツアーもバンドメンバーが素晴らしいと仰っていましたね。どんなメンバーが揃っているのですか?
B: ドラマーだけが何人か変わったが、ここしばらくはほぼ不動のメンバーだ。ギタリストはロサンゼルス出身のマイケル・ミラー。幅広いスタイルを演奏するハイレベルのミュージシャンだが、これは彼に限ったことではない。僕がバンドのメンバーに求めるのはまさにそれ。というか、幅広いスタイルの知識と技術があるミュージシャンじゃないと、僕の演奏する音楽の幅広さに対応してもらえない。ロック、R&B、ジャズの要素、バラード、ブルースを全て演奏できるプレイヤーはそう何人もいないからね。そんな一人、シカゴ出身のキーボードのマイケル・ローガンは歌も歌うし、B3ハモンド、フェンダーローズ、ウーリッツァーなど様々なキーボードを弾くし、ギターもものすごくうまいんだ。彼はその昔、シカゴでステイプル・シンガースのギタリストとしてキャリアをスタートさせたという経歴の持ち主さ。サックス奏者のエリック・クリスタルはキーボードもギターもメロディカも演奏するので、エリックとマイケルがシンセ類も含めたキーボードを全て弾いてくれる。パーカッションはシンガーでもあるブランドン・マヒア。そしてベーシストは世界的に有名なウィリー・ウィークス。幸運なことに、ここのところ、ずっと彼と一緒にやれている。ご存知の通り、彼は日本在住なのでオーディエンスには数々のレコーディングやライヴでおなじみだ。だから日本でウィリーを紹介すると、客席の反応がすごく盛り上がるので、見てていつも楽しいよ。ドラマーはロサンゼルス出身のテディ・キャンベル。彼は子供の時からゴスペルを歌っていたというバックグラウンドの持ち主で、素晴らしいシンガーでもあるんだ。僕に言わせりゃ、奇跡だよ。あとは、カリフォルニア州ベイエリア出身の若手男性シンガー、クリフ・トーベン。以上が今回のツアーのバンドだよ。
Q: そのジャパン・ツアーに向けて、意気込みを教えてください。どんなショーを期待できそうですか?
B: 色々な曲をやるのはいつもと一緒なんだけど、日本ではいつも以上にレパートリーを増やすつもりだ。僕の日本のファンはそれを受け入れ、楽しんでくれるファンだと思うので、普段アメリカのコンサートではやらない曲もやろうと思ってるよ。例えば、日本のオーディエンスは僕のバラードが好きみたいなので、バラード曲を少し増やす。あと、最近のアルバムの楽曲をあまり知らない人のために新しめの曲も何曲か、同時に皆が聞きたいと思っているヒット曲ももちろんやるよ。かなりバラエティ豊かなセットになるだろう。さっきも言ったように、今はとてもリラックスしてステージに上がれているので、普段よりも少し長めのセットで、たくさんの曲を演奏するつもりさ。
Q: 最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
B: 日本に行くのはいつだって楽しみなんだ。前回の来日からかなり間が空いてしまい、ずっとみんなに会いたかった。僕にとって日本は本当に特別な国だよ。世界中、旅した中でも日本みたいなところは他にない。でもまだほんの一部しか知らない気もする。今回はツアーが終わった後も少し日本に残って、色々なところを見て回る予定なんだ。これまでやりたかったことをやるつもりさ。日本でのツアー、心から楽しみにしているよ。
訳:丸山京子